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■管長日記「情熱」
■note
https://note.com/engakuji/n/nb05cac34a232
最後に一日のはじまりを整える、呼吸瞑想がございます。
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「私の信ずるところによれば、修身科というものは、何よりもまず人間をして、力強くこの人生を生きるような、覚悟をさせるものでなくてはならぬと思うのです。
すなわち、これまで眠っていた魂が、一箇の人格を通じて、人生の大道に触れることにより、俄然として自己に目覚めて、自らの力の限り力強く、その人生行路を歩み出すようでなければならぬと思うのです。
すなわちそれによって、新たなる人生のスタートが切られて、そこに魂の新生が始まるようでなくてはならぬと思うのです。」
これは森信三先生の『修身教授録』の第二部第九章「情熱」にある文章であります。
「修身科」というと、ずいぶん古い言葉のように感じてしまいますが、内容は新鮮であります。
「修身科」を「禅」と置き換えても通じるように思います。
「禅」というものは、何よりもまず人間をして、力強くこの人生を生きるような、覚悟をさせるものでなくてはならぬ。
すなわち、これまで眠っていた魂が、一箇の人格を通じて、人生の大道に触れることにより、俄然として自己に目覚めて、自らの力の限り力強く、その人生行路を歩み出すようでなければならぬ。
まさしく「禅」というのは、単に静かに坐って心を見つめて、心を静めて終わるものではありません。
力強くこの人生を生きるような覚悟をさせるものでないといけません。
そして、それは人を通じて伝わるものであります。
人との出会いによって、
「これまで眠っていた魂が、一箇の人格を通じて、人生の大道に触れることにより、俄然として自己に目覚めて、自らの力の限り力強く、その人生行路を歩み出す」のであります。
こういう生き方こそを、日々新たなりというのでしょう。
殷の湯王は次のことばを盤、洗面の器に彫りつけて毎日の自誡の句としたのです。
苟に日に新たに、日日に新たに、又日に新たなり
というのです。
森信三先生は、今年没後三十年になりますが、その『修身教授録』は今も多くの人に読み継がれています。
『修身教授録』は昭和十二年森信三先生が、まだ四十一歳の時に、大阪天王寺師範(現大阪教育大学)専攻科の倫理哲学の講師として、修身科の授業で語られたものです。
生徒がその森先生の講義を筆録して記録に残されたのでした。
昭和十五年森先生四十四歳の時に一般に公開されたものです。
森先生の高弟であった寺田一清先生に円覚寺にお越しいただいて、この『修身教授録』の読書会の催し方を教わりました。
この本には、全三十九講が載せられているのですが、そのなかの一講を選んで、参加者が、それぞれ一段落ずつ声を出してよみます。
一通り読み終えたら、各自一人ずつ、どの文章に感動したのか、どんな感想を持ったのかを発表します。
そして最後に私が講評をして終わるのです。
小一時間で手軽に開催できる勉強会なのであります。
寺田先生にご指導いただいて始めたのですが、その寺田先生も昨年お亡くなりになりました。
こうして今も若い修行僧たちとこの勉強会を続けることが、せめてものご恩返しであります。
森先生は、学校の修身において情熱という問題に触れてこなかったのは、情熱が人生の原動力になるということを十分に認めていなかったからであり、この情熱というものに重要な意味を持つと説かれています。
森先生は「人間の偉さ」について、「二つの要素から成り立つ」と示されています。
その「一つは、豊富にして偉大な情熱であり、次には、かかる豊富にして偉大な情熱を、徹頭徹尾浄化せずんば已まぬという根本的な意志力」であるというのです。
そうなると、森先生は
「かくして情熱というものは、人間の偉大さを形づくるところの素材であり、その基礎と言ってもよいでしょう」と説いているのであります。
そして更に「始めから情熱のない干からびたような無力な人間は、いわば胡瓜のうらなりみたいなもので、始めから問題にならない」と指摘されています。
「情熱のない人間は、いわばでくの坊であって、何ら手の下しようがないとも言えましょう」と手厳しく述べておられます。
「かくして人間は、軍艦が重油の切れたときストップするように、内なる情熱の枯れ果てた時、その進行は止まるのです。
すなわちその時人間は、生きながらミイラとなり、文字通り生ける屍となるのです。
教師というものは、とかくこういう種類の人間になりやすいものですから、お互いに深く注意を要すると思うのです。」
と説かれていますが、「教師というものは」というところを「僧侶というものは」に置き換えてみると身につまされるものがあります。
そして情熱について森先生は、「まず物に感じるという形をとって現れる」と指摘されて、「感激とか感動とかいうものは、その人の魂が死んでいない何よりの証拠です。
ですからわれわれ人間は、感激や感動のできる間は、まだその人は進歩する可能性を持っていると言ってもよいでしょう。」
と示してくださいます。
そこで感激と感動との違いについて説明してくれています。
「感動は深くして内面的であるが、感激はこれに比べれば浅くて外面的なもの」というのです。
「そもそも真に深い感動というものは、外に現れるものよりも、内にこもるものの方が大きいのです。これに反して感激という方は、内にこもるものより、外に現れるものの方が大きい場合を言うようです」
というご指摘にはなるほどと思います。
「真に大きく成長してやまない魂というものは、たとえ幾つになろうと、どこかに一脈純情な素朴さを失わないものです」という一文は、多くの者が感動した言葉として取り上げてくれていました。
そして最後に
「現実問題の一つとして、自分の情熱を深めていくには、一体どうしたらよいかというに、それはやはり偉人の伝記を読むとか、あるいは優れた芸術品に接することが、大きな力になることでしょう。
そしてそれを浄化するには、宗教及び哲学が大いに役立つものです。」と説かれています。
修行僧達の感想の中には、ただいま円覚寺の修行道場には、曹洞宗の藤田一照さんや、臨済宗の佐々木奘堂さんや谷川東顕さん、椎名由紀さん、西園美彌さん、尺八の工藤煉山さんなどに、それぞれご指導をいただいているのですが、その人達の情熱を感じると言ってくれたのがありました。
そんな感想を聞いて我が意を得たりとの思いがしました。
どの先生方も、「幾つになろうと、どこかに一脈純情な素朴さを失わない」方たちであって、その情熱を感じて欲しいのであります。
そんな先生方に接して、感激し深い感動を得て、自ら情熱をもって修行して欲しいと願うばかりなのであります。
それには、まず私自身が今よりももっと情熱を持って生きねばならないと思ったのであります。
横田南嶺
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